まわりのことが
よく理解できなくなってからも
祖母は
よくアンパンを買っていた
わからないのに、
たくさん
取りつかれたように
買っていた
孫たちがおいしいといったそのパン屋まで
行くことはできなくても
見た目も味も全然違うのに
コンビニのそれでも
喜ぶ顔がただ見たかったんだ
今はそう思う
父親がその近くの学校で
教師をしていたことで知ったパン屋
薄い皮につつまれた小ぶりのあんパンも
レモンの薄切りがちょこんとのったハンバーグパンも
どれも大好きだったパン屋
小学生だった私はそれを喜んで食べていた
祖母はそれがうれしくて
少し歩くパン屋までの道のりを
いそいそと通っていた
大学2年のときに
その祖母は他界して、
私は大学卒業後、実家を離れ、
しばらくはそのパン屋のことも
忘れていた
そのうちにごくごく普通の地元のパン屋さんという
風情だったそのパン屋は
今は並ぶ人が絶えない
有名なパン屋さんへと姿を変えていた
こんなにも変わってしまったことに
過去を消されてしまうような気がして
抵抗を覚えないわけではなかったけれど
久しぶりに口にしたあのあんパンの味は
祖母が買ってきてくれていた頃と同じ味がした
店が変わってから出たレバーペーストと
2階のカフェのパテとマリネのプレートが大好きで
両親もフィアンセも連れていった
まるで、秘密基地をこっそり教えているような気分だった
独身最後のクリスマスは
ここのお菓子がいいな
ぼんやりそう思うようになったのは
11月の終わりにフィアンセを連れていったとき
ドイツのクリスマス菓子のシュトレンは
おいしく漬け込まれたドライフルーツがたっぷりと
練りこまれて、粉砂糖をかぶっていた
なんだか宝箱みたい…
口の中で宝石を味わいながら思う
宝箱の中には小さなフェーブがひとつ
当たった人は1日王様、1年間幸福に過ごすことの
できるといわれる幸せの象徴
毎年1つづつ増やしていきたい
私が大切な誰かに
あんパンを買っていってあげるようになっても
ずっと
ずっと
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